毎年華やかな演出のアカデミー授賞式ですが、作品賞は必ず一番最後に発表されます。
やはり作品賞はアカデミー授賞式のハイライトということなんでしょうね。改めて第一回からの受賞作を見てみると、順当だと思えるような結果であったり。
これは違うだろ!と思ったりなかなか興味深いものがありますね。
そこで今回はアカデミー作品賞受賞作の中から、例によって極私的におすすめの10作品を選んでみました。
原則的に当ブログで以前に取り上げたことのある作品は、今回涙をのんで除外してあります。
それでは年代順に行ってみましょう!
グランド・ホテル
1932年エドマンド・グールディング監督グレタ・ガルボ主演の群像劇。
当時MGMのオールスターキャストで制作された作品で、ベルリンで超一流の「グランド・ホテル」を舞台に落ち目のバレリーナ、借金まみれの自称「男爵」。
倒産危機に陥った大企業の社長、会社をクビになり一生の思い出にとこのホテルに泊まりにきた老人。
これらの人々の交差する人間模様を描いた斬新な手法で。
これ以降ひとつの場所を舞台に様々な人々が集いそれぞれのストーリーが同時進行する作品を、「グランド・ホテル」形式と呼ばれるようになった記念碑的作品です。
ちなみに三谷幸喜監督の「有頂天ホテル」はこの映画に対するオマージュとして制作されたのは有名ですね。
我が家の楽園
1938年フランク・キャプラ監督ジェームス・スチュワート主演の人情喜劇。
フランク・キャプラ監督とジェームス・スチュワートはこの作品以外にも、「スミス都に行く」や「素晴らしき哉、人生!」など。
ジョン・フォード監督とジョン・ウエイン、黒澤明監督と三船敏郎と並ぶ名コンビと言ってもいいですね。
軍需工場拡張のために近隣住人を立ち退かせる役目を、社長である父から命じられた副社長の息子。
そしてただひとり立ち退きを拒否しているのが、密かに想いを寄せている秘書の父親と言うこともあり張り切って交渉に向かいます。
しかしこの家族全員の自由奔放な生き方にビックリ!やがてそのペースにすっかり巻き込まれた副社長は・・・。
キャプラ=スチュワートコンビの作品はどれも、観終わったあと心が暖かくなり生きる希望が湧いてくるような気持ちになりますね。
2006年にアメリカ映画協会が「元気が出る映画100」の第一位に選出して「素晴らしき哉、人生!」と共にこのコンビの作品はいつまでも心に残るおすすめの作品です。
風と共に去りぬ
1939年ヴィクター・フレミング監督ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル主演。
マーガレット・ミッチェルの世界的ベストセラーとなった原作を、当時としては超破格の390万ドルという制作費を掛けて作られた大作。
映画も世界中で大ヒット!何度もリバイバル上映されストーリーもよく知られた作品ですね。
プロデューサーのデビット・O・セルズニックが映画化権を獲得してから2年以上に渡り、スクリーンテストをして女優は90人。
その中には名だたるスター女優もいましたが、セルズニックにおメガネにかなわず主演女優未決定のままクランク・イン。
たまたまロケを見学に来ていたイギリスの舞台女優ヴィヴィアン・リーを見て「スカーレットがいる!」とセルズニックが叫んだのは有名なエピソードです。
アトランタ炎上やスカーレットが飢えのあまり農園の人参を生でかじるシーン、そして主題曲「タラのテーマ」は今も多くの人の心に残る名作ですね。
レベッカ
1940年アルフレッド・ヒッチコック監督ジョーン・フォンテーン、ローレンス・オリヴィエ主演。
名匠ヒッチコック監督のアメリカ進出第一作。
主人公「わたし」は大金持ちのマキシムと出会い恋に落ち、彼の妻となってイギリスの大邸宅にやって来ます。
マキシムは1年前に前妻のレベッカをヨット事故で亡くしており、今も屋敷を取り仕切っているのはレベッカ付きの使用人ダンヴァース夫人。
ダンヴァース夫人は「わたし」を受け入れず、やがて精神的に追いつめられた「わたし」は・・・。
劇中主人公のファーストネームが一度も語れれることないのは、おそらくこの作品だけだと思います。
とにかくこの作品の魅力はダンヴァース夫人の不気味さに尽きます。歩いているシーンは一度もなくいつも振り返ると幽霊のように「わたし」の後ろに立っている。
そんなシーンを繰り返すことでダンヴァース夫人の不気味さを強調し、主人公が徐々に追いつめられる様子を描いています。
もちろんこれはヒッチコック監督の演出で、こういう描写がヒッチコック監督の真骨頂と言えるでしょうね。
しかしヒッチコック監督が、アカデミー監督賞を受賞してないのはどうも納得出来ないのは私だけではないと思います。数多くの優れた作品を世に送り出した監督だけに残念ですね。
失われた週末
1945年ビリー・ワイルダー監督レイ・ミランド主演作品。
今も私の一番好きな映画監督であるビリー・ワイルダーの名作!
ワイルダー監督と言えば「麗しのサブリナ」や「昼下りの情事」「フロント・ページ」「七年目の浮気」「お熱いのがお好き」などのコメディー作品が有名ですが。
この作品以外にも「サンセット大通り」「悲愁」「第十七捕虜収容所」「情婦」などシリアスな作品にも優れたものが多く、事実この「失われた週末」では監督賞も受賞しています。
アルコール依存症の作家とそれを支える兄と恋人の物語。酒を飲み持ち金を使い果たし、家政婦の給料を勝手に持ちだしたり、レストランで隣に座った女性のバッグを盗もうとしたり。
遂には大切な商売道具であるタイプライターを質に入れようとしたり、最後には絶望して自ら命を絶とうとまで、しかし恋人ヘレンの愛に救われ・・・。
この作品の制作を知った酒造業者がパラマウントに「フィルムを処分してくれたら500万ドル払う」と申し入れたそうですがパラマウントはこれを拒否。
それを知ったワイルダー監督は「自分に持ち掛けてくれたら喜んで話しに乗ったのに」とジョークまじりに言ったが、アルコール依存症を真正面から描いた最初の作品であると誇りを持っていたと、「ワイルダーならどうする?」の著者キャメロン・クロウは語っています。
巴里のアメリカ人
1951年ヴィンセント・ミネリ監督ジーン・ケリー、レスリー・キャロン主演、音楽ジョージ・ガーシュウィン。
このメンバーを見るとMGMミュージカルファンはもうたまりませんね!
ジーン・ケリーはフレッド・アステアと並ぶミュージカルの大スターですが、アステアはどちらかと言うとRKOでジンジャー・ロジャースとのコンビでスターとなり、その後MGM作品に出演した人ですね。
その点ジーン・ケリーは生粋のMGMのスターで、この作品以外にも「雨に唄えば」「踊る大紐育」「錨を上げて」「私を野球に連れてって」など枚挙にいとまがないほどの名作があります。
しかしこのタイトルの「巴里」をパリ「紐育」をニューヨークだと分かる世代はもう少ないでしょうね。もちろん私も映画で覚えたのですが(笑)
MGMのミュージカルに理屈は必要ありません。スクリーンでダンスと歌を存分に楽しむそれでいいと思います。
そしてスクリーンの中の目をみはるような見事な「芸」に酔いしれましょう!
地上より永遠に
1963年フレッド・ジンネマン監督バート・ランカスター、モンゴメリー・クリフト、フランク・シナトラ主演のヒューマン・ドラマ。
この作品もタイトルの読み間違えが多いですが「ここより とわに」が正しいタイトルです。
ハワイ・ホノルルの米軍基地を舞台に、かつてボクシングの試合で相手を失明させた過去を持つトランペットの名手ブルーイット。そして彼を自分のボクシングに勧誘する上官のウォーデン。
彼はその過去から何度誘われてもその勧誘を断わ続けた結果、孤立無援になり理不尽なシゴキを受けます。
そんなブルーイットの唯一の味方だったアンジェロが、無実の罪で営倉に入れられ殺されたのを知ったブルーイットは・・・。
軍内部の腐敗を描いた重いテーマの作品ですが見応え抜群の名作です、
特にアンジェロが殺されレクイエムの思いを込めてブルーイットがトランペットを吹くシーンは、何度観ても胸を揺さぶられます。
この作品でアンジェロを演じアカデミー助演男優賞を獲得したのがフランク・シナトラ。
映画「ゴッドファーザー」で歌手のジョニー・フォンテーンがドン・コルレオーネに、映画出演に助力してくれるよう頼むシーンがありますが。
あのエピソードはシナトラとヴィト・ジュノベーゼがモデル、そしてその作品は「地上より永遠に」だと言われています。
ベン・ハー
1959年ウィリアム・ワイラー監督チャールトン・ヘストン、スティーブン・ボイド主演の大スペクタクル作品。
アカデミー史上最多の11部門を獲得した作品ですね。
ユダヤの豪族であったジュダ・ベン・ハーは、幼なじみのメッサラによってローマ総督の暗殺を図った疑いを掛けられ、家族は投獄され自身は奴隷船送りになります。
しかしそこで命を救ったローマ帝国の将軍の養子になり懐かしい故郷へと戻って来ます。
そしてクライマックスはあまりにも有名な宿敵メッサラとの4頭立て馬車による戦車競走での対決!
もう初めてスクリーンで観た時は大興奮しましたねぇ。
キリストの生誕シーンから始まる物語は、その後の受難そして復活が大きな柱になっています。
そしてどんな過酷な状況に置かれても、決して諦めない男の不屈の精神を描いた作品でもありますね。
当時日本円で54億円もの巨額な制作費を投入されたこの作品は1本で、倒産寸前だったMGMは経営を立て直せることが出来たそうです。
2017年には最新の技術を駆使してリメイクされるそうですがさてどうでしょうね。
夜の大捜査線
1967年ノーマン・ジュイソン監督ロッド・スタイガー、シドニー・ポワチエ主演。
人種差別の激しいアメリカ南部のミシシッピ州のとある駅、列車からひとりの男が降り立つところから物語は始まります。
その小さな町で有力者の殺人事件が発生し、巡回中のパトカーが列車から降りた男を発見。その男がよそ者で尚且つ黒人であったため警察は男を逮捕。
町の警察署長ギレスビーの前に連行します。しかし周りの警察官から差別と侮蔑的な目で見られているその男ティッブスは身元はフィラデルフィア警察の敏腕刑事であることが判明。
事件に手を焼いたギレスビーは屈辱を感じながらもティッブスに捜査協力を依頼。
そして頑固な差別主義者と黒人刑事が捜査を進めていくうちに、ふたりの間には奇妙な友情が芽生え・・・。
常にガムを噛み粗暴で黒人嫌いの署長、そして切れ者の黒人刑事このキャラクター造形が良く、ロッド・スタイガーとシドニー・ポワチエもはまり役と言えるほどの好演でイッキにストーリーに引きこまれます。
そしてギレスビーがティッブスの鞄を持ち駅に見送りに来るラスト。
レイ・チャールズの名曲「IN THE HTAT OF THE NIGHT」と共に忘れられない名シーンです。
羊たちの沈黙
1991年ジョナサン・デミ監督ジョディ・フォスター、アンソニー・ホプキンス主演の傑作サイコ・スリラー。
この作品も衝撃的でしたね。原作のトマス・ハリスが6年の歳月を費やしこの作品によって「プロファイリング」という言葉が広く使われるようなったのはよく知れれているところです。
若い女性が殺害され皮膚を剥がれる猟奇殺人が、アメリカ各地で連続して発生。
バッファロー・ビルと呼ばれる犯人は逃走中。
捜査に行き詰まったFBIは訓練生クラリスに、元精神科医で殺人犯のハンニバルに協力要請を命じクラリスは州立精神病院へと向かいます。
クラリスに過去の出来事を語らせることを条件に、協力を約束するハンニバル。
そして新たに上院議員の娘がバッファロー・ビルに誘拐されます。
何とかバッファロー・ビルの自宅に乗り込み犯人を射殺し、人質を無事救出したクラリスですが病院から脱走し逃走中のハンニバルから一本の電話が・・・。
この作品でジョディ・フォスターはアカデミー主演女優賞を、アンソニー・ホプキンスは主演男優賞を獲得。
ホプキンスは続編「ハンニバル」でも主演を務めています。
尚、犯人のニックネームであるバッファロー・ビルは西部開拓時代に実在した人物。
ガンマンであると同時に「ワイルド・ウェストショー」という西部劇のショーを立ち上げた興行主でもありました。
ショーにはカスター中佐率いる第七騎兵と「リトルビッグホーンの戦い」で激戦を繰り広げたスー族の酋長シッティング・ブルも参加。
全米やヨーロッパでも大成功を収め、彼自身も「平原児」や「アニーよ銃をとれ」など映画化もされています。