飲食業の中でもお酒を扱うお店を営んでいるとそれこそ毎日様々なタイプのお客さんが来店されます。
特に紳士的でマナーが良く楽しい時間を過ごされて帰り際に「ごちそうさまでした。美味しかったです」とスタッフを気遣ってお声かけして下さるお客さんとの出会いなど「この仕事をしていてよかったな」とつくづく思う瞬間です。
しかし中には迷惑を迷惑だと思っていない、それどころかそれが迷惑だとも気づいていない店側からすると困ったお客さんが多くおられるのも事実です。
そこで親の代から複数の飲食店の経営に携わって来た経験を元に、店側から見たお客さんの迷惑行為について考察してみます。
そもそもお客様は神様なのか?
故三波春夫さんによって広められた「お客様は神様です」という有名な言葉がありますね。
これを今でも言葉の上っ面だけ切り取ってサービスを提供する側は神様であるお客のどんな無理でも聞き入れなければならないと誤解している方も多くおられますね。
しかし三波春夫さんがこの言葉を使った意味はまったく違っていて「歌うときはあたかも神前で祈るように雑念を払って完璧な芸を見せます。だから演者にとってお客様は神様なのです」こう言っておられます。
ところが現在ではこの言葉が接客スタッフを追い込むクレーマーの常套句になってしまいましたね。
はっきりと言って飲食業界を含む接客業に携わる人たちはおそらく全員が「お客様は神様だ」と思っているお客を神様だとは思ってません!
じゃあ具体的にどのような行為がスタッフの考える迷惑行為なのでしょう?中には「えっ?その程度のことで?」と思われることもあると思いますが、その程度でも蓄積するとスタッフにはダメージとして残ることも多々あります。
それではこれまで数多くのスタッフを悩ませ、私自身数えきれないほど目にし耳にした行為を具体的にあげて行くと・・・。
そこには一流割烹やフレンチレストランでは決して起きないであろう、大衆的な価格の店特有の理解できないことが色々あります!
1 開店・閉店時間お構いなし
飲食店に限らずどんな業態のお店にも決められた開店・閉店時間がありますよね。飲食店はその日の予約の状況を考慮して食材や調理方法に合わせ準備を進めて行くので、開店準備はスタッフにとって需要な時間と言えるわけです。
そのためにお店の前には「準備中」や「支度中」などわかりやすい位置にプレートを設置し営業時間を明記してあります。
ランチ営業もしているお店などでは夜の開店準備中は店の玄関に鍵をかけたり、「ランチタイムは終了しました。尚ディナーは◯時より営業致します」と書かれているお店も少なくありません。
しかしながらそんなことなど一切お構いなし!「準備中」のプレートがかかっていようが終了しましたと書かれていようがしつこくドアを叩き続けたり、明らかに営業時間よりも照明を落として店内が暗いのに入ってくる人がいます。
「まぁ中にはそんな人もいるかも知れないけどほんのひと握りの人だけでしょ?」そう思ってませんか?これが結構いるんですよ。
店に入ったらなんとかなると思っているのでしょうが、はっきり言って入ってもなんともなりません!
また閉店時もラストオーダーを取る時点で閉店時間を知らせてますがそれも一切お構いなし・・・。
中には閉店を告げると「どうせ今から後片付けするんだったらその間居させてよ」と言われることも。
店側としては営業時間はどんなことがあってもきっちりと守り、営業中は調理・サービス共に精一杯のおもてなしを心がけています。
なのでこういう場合は丁寧にお断りしますが逆ギレされて悪態をつかれることもしばしば・・・これはやはり疲れますねぇ。
2 明らかに接客中であるにもかかわらず何度もしつこく「すいませ〜ん」声をかけてくる
これはホールスタッフなら必ずと言ってもいいほど経験しています。客側からすればただオーダーしたいから声をかけているだけのことだと思いがちですね。
しかしスタッフからすれば接客中で返事がしにくい又はできない状態での「すいませ〜ん」連呼はほんとにメンタルにダメージを受けます。
ホールスタッフも長くやっているといろんなトラブルやクレームに直面します。ベテランならほとんどのトラブルやクレームには対応できるだけのスキルは身につけています。
しかし一度や二度ならまだしも何度も多い日には何十回もこれを繰り返されると、ダメージの蓄積は少なくありません。
営業終了後にホールスタッフがぐったり疲れているのはこんな所にも大きな原因があります。
3 呼び出してからオーダーを考える
週末や連休前はもちろん平日でも忙しい時間帯はスタッフにとって店はもう戦場のような有様で文字通り「目が回る」ほどバタバタと動きまわりながら、「次はあれをしてこれをあのテーブルに持って行って」と頭も体もフル回転させています。
そんなとき「すいませ〜ん」の声で席に行くと呼んでから「う〜ん、何しようかな?」と時間をかけて考える人も多く見られます。
その間にもやるべきことはどんどん増えて顔では平静を装っていても心の中では相当焦っています。
「5分も10分も考えるわけじゃないんだから少しくらいいいだろう」そう思われるでしょうが店側にとってはせめてオーダーする品物を決めてから呼んでほしいと言うのが偽らざる本音ですね。
4 とにかくやたらと態度が横柄
スタッフや他の客に暴力を振るったり店の食器や調度品を故意に壊すなど、よほどのことがない限り店側はお客に逆らうことはありません。
つまり「客>スタッフ」という関係は変化することはないわけです。分かりやすく言えば店側が絶対的に弱い立場であることは間違いありません。
そんな自分よりも弱い立場の人間に対して横柄なふるまいをするのはお客という立場を超えて人としてどうなんでしょうか?
三谷幸喜脚本の傑作ドラマ「王様のレストラン」で松本幸四郎さん扮するギャルソンの千石が横柄なお客に対して「私たちはお前様の家来ではございません」というシーンがありましたがこのセリフは飲食店スタッフの気持ちをよく表した言葉です。
またビートたけしさんはその著書「バカ論」の中で
つまり客商売をやっているところに行ってケチをつけたりするのが大嫌いなの。
それはメシ屋でもどこでも同じ。他人様が商売しているところに行って「金払ってるのはこっちだろ」なんて偉そうに文句つけたりするのは最低だね。
ダメだったり気に入らなければ二度といいかなければいいだけのこと
※「バカ論」より引用
これはやはり大人として本当にみっともない態度と言えるでしょうね。
5 予約時間に遅れるのに連絡なし又は店に来てから予約人数を変更する
未だに後を絶たない「No show」と言われる予約の無断キャンセル問題。日本フードサービス協会のレポートによるとその損害額は年間2000億円にものぼり、もはや社会問題にもなっていますね。
お店によって色々な対策を立てているようですが店側にとっては大人数の予約はやはり以前より神経質にならざるおえません。
予約時間から10分程度経っただけでも「やられたか!」思ってしまうのも仕方のないことですね。
自分から時間を指定して相手がそれを受けた時点がそれは契約とまではいかないまでも約束として成立した事柄ですから、遅れるときには事前に連絡するのは当然のマナーだと理解してほしいところです。
又これもよくあることですが来店されてから「人数が◯人増えたけど頼むね」と言われるのも店側としては困ります。
食材に関してはあらかじめ増えることも想定して数人分は余裕を見て準備しますが、その想定を超える人数だともう大変!
またホールスタッフも場合によっては別の広いテーブルを改めてセッティングし直すなど店中バタバタ度は一気に加速します。
6 会計を済ませた後も延々と居座る
これもよくあるパターンですね。お会計を済ませ帰られたら、スタッフは素早くグラスや食器を片付けテーブルを綺麗にして次の来店客に備えます。
ところがいつまで経っても帰らない人が多いんですねこれが!
フリードリンクのお店などではお座敷利用時間が決められていたりしますが、そうでない場合は新規の来店客を満席でお断るすることもあります。
これは店側としては頭の痛い問題ですね。
7 持ち込んだ食材を調理させようとする
これもよくあるパターンのひとつですね。冷凍食品を持ち込んでこれを調理してくれなんていうのはまだいい方で、中には自分で釣ってきた魚をさばいて盛り付けて出して欲しいなんて言われることもあります。
どこのお店でも食べ物の持ち込みは嫌がるものですが、ましてそれを調理してくれっていったいどんな神経をしているのだか・・・理解不能ですね。
最後に
交通や喫煙にマナーがあるように外食する方にもマナーは存在します。読まれた方の中には「それもこれも含めてサービス業だから仕方ない」そう思われるかも知れないですがスタッフも人間です。
気さくでマナーの良い客を優遇したいと思うのは当然の感情ですね。もちろんあからさまに特定の人だけにサービスをすることはありませんが、多少の無理ならば聞いてあげたいと思うのも事実です。
じゃあマナーが悪い客にはサービスが悪いのかというとそんなことはあり得ないし、店側から文句を言ったりも絶対にありません。
ただ野暮な人だなと思うだけです。しかし飲食店やバーなど言わば「遊び場」で野暮だと思われることは大人にとって想像以上にカッコ悪いことだと思いますね。
何も難しく考えないでほんの少しの気遣いと当たり前のマナーを守ることができないと結局損をするのは客側だと言えなくもないですね。
だってお金を使って野暮だと思われたら割に合わないでしょ?