短気でせっかちな性格を関西では「いらち」と言いますが、私なんぞその「いらち」の典型でして。
どれくらいの「いらち」かと言うと、真夏に居酒屋さんに行くと最初の注文で「とりあえず生2杯ね!」「えっ?おふたり様ですか?」「いやひとりやけど1杯目はすぐになくなるから2杯持って来てね」 とまぁこれくらいの「いらち」なわけです。
そんな私ですから並んでまで食事をすることなどもってのほか!美味しいと評判の店でも並ぶくらいなら別のお店に行くぜと、これまでハードボイルドな態度を貫いて来ました。
そんな時ある雑誌の一文が目に留まりました。そこにはなんと!「並んでも食べたい!」
これまでの私の生き方と行動規範を、頭から否定するような衝撃的な言葉がそこには大きな文字で記されているではありませんか!
「並んでまで食べたくない」と思っていた私に「並んでも食べたい」と不敵な言葉を投げ掛けて来たんですね。
そこでしばし私は考えました。「並んでまで食べたくない」を貫くには「並んでも食べたい」ものを食べる機会がこの先すっと来ないと言うことですね。
よし!それじゃ「並んでまで食べたくない」私が一度くらい「並んでも食べたい」ものを、並んで食べるのもいいじゃないか!どうせ並んで食べるなら、行列で有名なところへ行ったろうやないか!
というわけで今回チョイスしたのはこちらのお店!
人形町「玉ひで」
創業宝暦10年(1760年)、鳥料理の老舗人形町「玉ひで」。そして「玉ひで」と言ったら親子丼!
明治20年頃、鳥すきのシメに肉と割り下を卵ご飯と共に食されたお客様がおりました。この鳥すきのシメの卵とじを「親子丼」と称します。
ホームページにこう書かれていますが、親子丼はそもそもお客さんの発想で生まれた料理だったんですね。
お客さんの注文がその店の看板メニューになるのは飲食店はよくあることですね。例えばトンカツとカレーライスを別々に食べるのが面倒なお客さんが、カレーの上にトンカツを乗せてくれと頼んだのがカツカレーの始まりなのは有名な話しですね。
さてこの「玉ひで」ですがテレビで紹介されたり雑誌に掲載されたこと数知れずというほどの超有名店です。
よし!ここに決めた!と決意も新たに勇躍行列に並ぶ覚悟で出掛けました。
行列初体験!
お昼の営業は11時30分からですが、到着したのは少し出遅れ11時50分。そのときすでに店の前はこんな状態に。
ざっと数えて約50人くらいの行列がそこに。この段階でもう心が折れそうでしたが何とか自らを鼓舞して行列の最後尾へ並びました。
イライラを必死で抑えながら10分くらい待ってふと後ろを振り返ると、おお!たった10分の間に行列はさらに長さを増しているではありませんか・・・恐るべし!
そしてすぐに後ろに並んでいたお客さんのひと言が私をより驚かせる事に!「今日はいつもより人が少ないね」これで少ないんかい!・・・恐るべし!
内心の動揺を隠し冷静を装っている私でしたがやはり凄いですね。
そのまま20分ほど大人しく並んでいると、突然ひとりの若い男性が私のそばにやって 来て「テレビ朝日ですが今日玉ひでさんを取材してまして、行列を撮らせていただいてます。アップにはなりませんがよろしいでしょうか?」
行列初体験でいきなりのテレビ取材・・・恐るべし!
他のお客さんは「えっ?あぁいいですけど・・・」とか「あっ・・・はい」などと控えめに答えている中私はと言えば「ええいいですよ、何ならアップでお願いします!あはは」と関西人気質丸出しで周りの冷ややかな視線を浴びる始末で。
そんなこんなしているうちに段々と行列は進み、お店の看板が近くに見えて来ました。
ここまで来たらもうすぐです。この辺りになるとお店の店員さんが人数と注文を確認に外へ出て来ます。
席について冷たいビールでも飲んでゆっくりと何を食べるか決めるかな、なんてことは一切許されません。もうお店の方針に従って仰せの通りにしなければなりません・・・恐るべし!
人数と注文を済ませ更に10分が経過、ようやくお店の玄関が目の前に!
すでに並び始めて40分が過ぎようとしています。しかしゴールはすぐに目の前にあります。頑張った俺!よく我慢した俺!偉いぞ俺!・・・しかし長かったぁ。
全体的自己陶酔に浸っていると玄関が開き「お次のお客様どうぞ」の声が!目指す親子丼はもうすぐ先にあります。私は期待に胸を膨らませて足取りも軽く店内へと入って行きました。
しかしその後さらなる悲劇が私を襲うことなど、その時は予想だにしていなかったのでした。
いざ店内へ・・・しかし・・・。
勇躍店内へと入り靴を脱ぎ下足札を貰い店に上がった私は、次の瞬間驚愕の事実を目にしたのです。
店内でも並ぶ必要があったとは!!!
期待が大きいと裏切られた時のショックは半端なものではありません。一瞬砕けそうになった腰を力を振り絞って持ち直しまたまた列の最後尾に並びました。
少し進むと右手にレジスペースがあり、ここで注文とお会計を先に済ませるよう告げられます。数多くのお客さんをさばくにはこれがお店にとって合理的なやり方なんでしょうね。
「分からないでもない」もうお店の仰せの通り状態プラス空腹で思考停止になっているので、ここは速やかにレジで注文とお会計を済ませいそいそと列に戻りひたすら時が過ぎるのを待ちます。
そしてやっと、本当にやっと「お次のお客様ご案内致します」と店員さんに導かれ席についたのでした。
並び始めてから席につくまで所要時間1時間10分!やっと待望の親子丼とのご対面の時がやって来ました。
ここで再び注文を済ませ少し経つと、まず丼の前に鳥スープが運ばれて来ました。
「温かいうちにお飲みになって下さい」と店員さんに言われここもまた仰せの通りゴクリとひと口飲んでから、慌てて写真を撮ったので少し中身が減ってしまいましたが、やはり美味しかったですね。
そして待ちに待った真打登場!
伝統の重みの中にも気品を感じさせる佇まいの「親子丼」。お値段は1.500円。
別々に味付けされた鳥もも肉とむね肉をふわとろの卵でとじた、正にトラディショナルな正統派の親子丼ですね。
そしてこちらはもも肉とむね肉に手羽肉を加えた「三昧 親子丼」。お値段1.900円。
どちらも食欲をそそるお姿です!
そしてお味の方は?
予想よりややあっさりとした割り下ですが、食べ進むうちに鳥と出汁の旨味が広がって何とも言えない美味しさに変化して行きます。
その昔飲食業界にいた頃、師匠から「食べてすぐに美味いと感じるものは味付けが濃過ぎる、食べ終わってちょうどいいくらいの味付けをしないとダメだ」と口を酸っぱくした言われましたが、玉ひでの「親子丼」は正にその言葉通り!
最初から最後まで飽きのこない絶妙の味付け。さすが伝統が作り上げた逸品ですね。中でも特筆すべきは別々に味付けされた鳥肉。
歯ごたえと味の違う鳥肉の個性を損なうことのない味のバランスは、思わず唸ってしまうほどのお味でした。
まとめ
味はもちろんお店の雰囲気や接客など、評判通りのお店でしたがただひとつだけ気なったのは、ご飯が熱々でなかったこと。
これはあくまでも予想ですが、何せ短時間に数百人のお客さんが訪れる超繁盛店ですから、あらかじめ盛られたご飯の上に具材を次々に乗せていく、そのようなオペレーションでは仕方ないことですがその点だけは残念でした。
しかしそれを差し引いても本当に美味しく、一度は味わってみる価値のあるひと品であることは間違いありません。
親子丼は安定の美味しさですが、手羽肉の歯ごたえと深みのある味がたまらない「三昧 親子丼」がおすすめです。
初めての行列体験でしたが、評判に偽りのない親子丼!大満足でした。ただまた並んで食べに行くかと聞かれたら・・・それはまた別の話し。