名選手が必ずしも名監督になれないのと同じように、名優が優れた演出力の持ち主とは限らないことは数々の失敗作によって証明されていますね。
しかしクリント・イーストウッド監督は名優かどうかは別にして(笑)名監督であることは間違いないところです!
とにかくどの作品もはずれがないのが、名監督たる所以でしょうか?
どれも観て損はない作品揃いですが、中でも特にオススメの3本を選んでみました。
3位「許されざる者」♪
ドン・シーゲル、セルジオ・レオーネ両監督にオマージュとして捧げた作品でイーストウッドが名監督としての地位を築いた作品です。
かつての腕利きガンマン、マニーは娼婦の顔を斬って賞金を掛けられた二人の無法者をキッド、ネッドの三人で追う。
三人は首尾よく二人を仕留めるが、ネッドは保安官のりリトル・ビルによって殺されてしまう。そして復讐に立ち上がったマニーは・・・。
なにが正義でなにが悪なのか?そしてその境界線はどこにあるのか?
人が人を撃ち殺すことに正義は介在するのか?そんな事をイーストウッド監督は、見る側に問いかけてきます。
今年公開された「アメリカン・スナイパー」でエンドロールをあえて無音にしたこともそうですが。
イーストウッド監督は作品を通じて何かを声高に叫ぶのではなく、観る側に問題提起することによってより作品を深く味わいのあるものに仕上げます。
やはりその手法は名匠と言えるでしょうね。
特にラストでのマニーの行動はドン・シーゲル監督、ジョン・ウエインの遺作となった「ラスト・シューティスト」を思わせます。ここにもシーゲル監督への敬意が表れているように思います。
許されざる者(1993) (プレビュー) - YouTube
2位「ミリオンダラー・ベイビー」♪
アカデミー賞主要4部門受賞の名作!
貧しいアイルランド系アメリカ人の女性ボクサーが、チャンピオンに登りつめるありがちのサクセスストーリー。
その程度の予備知識で観た作品です。確かに中盤まではそんな展開で観る方もエキサイティングな気分を味わえますが、まぁ凡庸なストーリーだと思っていたら後半からは大違い!
エキサイティングなボクシングシーンはすべて前振りだったんですね。
しかしこの凡庸な展開をここまで名作に仕上げるイーストウッド監督の手法には完全に脱帽しました。
特に観る者の心に重くのしかかる苦しいほど切ないラスト・・・。
この作品でもイーストウッド監督は、終末医療や尊厳死のあり方について観る者に問いかけます。
ラストについてはアメリカでも賛否両論で、宗教団体などは抗議活動を起こしたそうですが。
この問いかけが名作に仕上げたのだと私は思います。未見の方には是非オススメした作品です。
映画「ミリオンダラー・ベイビー」日本版劇場予告 - YouTube
1位「グラン・トリノ」♪
一緒に観た友人がエンドロールが終わったあと、涙を流しながら「俺の生涯のベスト1はこの映画や・・・」と言っていたのが印象的な作品です。
グラン・トリノとはフォード・トリノの72年から76年に生産された車種。
元フォードの自動車工コワルスキーは、妻に先立たれ息子や孫にも嫌われる頑固者で愛車グラン・トリノが誇りの隠居暮らし。
そしてひょんな事から隣に住むモン族のタオ、姉のスーと出会いホームパーティーに招かれたり徐々に交流を深めて行くのですがこの辺りがユーモラスに描かれます。
特にタオに対していつしか父親的感情を抱くようになったコワルスキー。
タオも彼を父親のように慕い、孤独なふたりには固い絆が生まれます
しかしやがてタオの姉スーが従兄弟のギャングに襲われ大怪我を負います。
今すぐ奴らをぶちのめそうといきり立つタオに「少し頭を冷やせ冷静になって4時にここに来い」」と諭すコワルスキーはタオが去った後ひとりで家を出て行きます。
タオを巻き込まずギャングと決着をつけようとするコワルスキーですが、その方法は・・・。
当初イーストウッド監督は俳優では引退して、監督業に専念するつもりだったそうですが、このシナリオに出会ってどうしてもコワルスキーを自ら演じたかったそうです。
人を隔てる壁は本来肌の色や、宗教であってはいけないはずですが、その壁を取り除くことはたやすいことではありません。
そんな問題に深く切り込んだこの作品は文句なしにイーストウッド監督の最高傑作だと思います。
この他にも「硫黄臭からの手紙」や「父親たちの星条旗」「パーフェクトワールド」「ジャージー・ボーイズ」などなど。
いい作品ばかりですが、観たときのインパクトの強さにおいて、やはりこの3作品が頭ひとつ抜けている、そんな印象を持ちました。
観るひとによって映画はいろんなことを問いかけてくれますね。
とにかくハズレのないイーストウッド作品には今後も注目して行きたいと思います。