映画「テイキング・チャンス」戦死者はどのように家族の待つ家に帰って行くのか
静かな作品です。
戦場や戦闘シーンもなく戦死した兵士を遺族の元に送り届ける、その様子を淡々と描いただけの内容。
それでいて観る者に様々なことを問いかけてくるようで心を揺さぶられます。
「テイキング・チャンス」ストーリー
2004年イラク戦争当時。デスクワークに従事する自分に対して忸怩たる思いを抱いていたアメリカ海兵隊中佐マイケル・シュトローブルは、送られてくる戦死者のリストに知り合いの名前がないかをチェックする毎日を送っていた。
そんなある日戦死者の中にチャンス・フィリップスという同郷の20歳の若者がいることを知りその遺体を遺族の元へ届ける任務に志願する。
飛行機や車を乗り継ぎ数日かけて故郷ワイオミングに向かうが、その途中の空港やハイウェイなど至るところで多くの人によって示される戦死者に対する敬意。
そんな光景を見るうちにマイケルの心も徐々に変化が現れる。
そしてチャンスの埋葬の日。デスクワークで兵士でなくなったと思っていたマイケルだが、戦死者を送ることに使命感を持つことを決意。
深く敬礼をして墓地を去る。
「テイキング・チャンス」の見どころ
実話に基づいた作品で戦死したチャンスという若者そしてその遺体を護衛し送り届けたマイケル共に実在の人物です。
映画は淡々とまるでドキュメンタリーのように、戦死者がどのようにして家族の元に送り届けられるのかを描いて行きます。
傷ついた遺体をいたわるように洗い清め遺品をピカピカに磨き上げ、新品の軍服を丁寧に縫製し着せて棺に入れる。
そして飛行機の中やハイウェイで人々によって示される敬意。アメリカという国や国民が自国の戦争で亡くなった兵士をどのように遇するのか。
そしてケビン・ベーコンの抑えた演技の素晴らしさ!それがこの作品の最大の見どころだと言えますね。
まとめと感想
国に殉じた者へ敬意を払うということを改めて再認識させられた作品です。
戦争を賛美することも反戦を声高に叫ぶこともなく、ただひたすら死者へ敬意を捧げる。そんな人たちの思いに胸が打たれます。
愛国心という言葉がともすればひとり歩きをし、ある一方の政治信条を表現する言葉と誤解されがちですが、本来は個人の主義主張とは切り離したところに存在するものであり、それに殉じた人へ敬意と心からの哀悼を捧げることは人として当然のことだと私は思います。
遺体を飛行機の乗せるときマイケルは敬礼を、そして飛行機の整備をする人たちが脱帽し胸に手を当てて棺を見送るシーンや、飛行機を降り車で遺体を故郷まで運んでいるときハイウェイでそれと気づいた何台もの車が、昼間なのにライトを点け先導するように走るシーン。
実際に今も様々な場所で行われているこのようなシーンは込み上げてくるものを抑えることは出来ませんでした。
そして生前のチャンス・フィリップスの姿が映し出されるエンドロール。77分と短い作品ですがそこにはいろんな人の思いが詰まっています。
戦争など絶対にあってはならないことだと思います。しかし現実に有史以来現在に至るまで数限りない戦争を人類は繰り返して来ました。
それが国として正しい選択なのか間違った選択なのか・・・。おそらく戦争自体が間違った選択なのでしょう。
しかしその選択の中で国のために命を落とした人たちが過去も現在も数限りなく存在します。
そんな人たちへ思いを馳せながら政治的な感情抜きにしてぜひ多くの人に観てもらいたい作品です。