読み始めたらもう何も手につかない!超おすすめ国内冒険小説傑作10選♪
日本の小説に初めて「冒険」という言葉が使われたのは1896年、森田思軒が「十五少年漂流記」を抄訳し「冒険奇談 十五少年」とタイトルをつけたことが始まりなんですね。
その後文壇は純文学全盛になり冒険小説(ハードボイルド)が小説のジャンルとして扱われたのは1958年大藪春彦の傑作クライムノベル「野獣死すべし」が最初だと言われています。
そして1959年に高城高が「微かなる弔鐘」62年には結城昌治が「死者に送る花束はない」、そして65年に生島治郎が「黄土の奔流」を上梓し冒険小説が一般的に認知されるようになりました。
そして80年代きっかけは日本冒険小説協会
1981年熱狂的冒険小説ファンでボードビリアンの内藤陳さんによって「日本冒険小説協会」が設立され82年には「日本冒険作家クラブ」創設され様々な細かくジャンル分けされていたエンタテインメント小説が冒険小説と総称されるようになりました。
そこからはもう出版界にも冒険小説ブームとも呼べるムーブメントが起き、北方謙三、船戸与一、大沢在昌、佐々木譲、志水辰夫等々。
今や大御所となった作家が次々と作品を発表したのもこの頃でしたね。前回は海外の名作を紹介したので国内の方も紹介せずにいられるか!ということで今回は国内編を。
中にはこれは冒険小説と呼ぶにはちょっとなぁという作品もありますが、広い意味でのエンタテインメント小説ということで何とぞご容赦のほどを!
佐々木譲 / 総督と呼ばれた男
辰也にはひそかに「裏総督」の呼称が奉られた。むろんそう辰也に直接呼びかける者はなかったし会話の中で自然に使われた言葉でもない。
ただ辰也の存在を誰かシンガポールに不案内な者に説明するとき日本人街の住人は言うのだった。「あえて言うならあの男は裏総督のようなものですな」と。
第二次大戦時シンガポールの暗黒街で「裏総督」と呼ばれた木戸辰也。
物語の幕開けは1920年代シンガポールの日本人街で身寄りをなくし施設で育てられている辰也が叔父孝作に引き取られるところから始まります。
ふたりはマレーに流れ鉄鉱山に仕事を見つけ働き始めますが、共産党による労働争議に巻き込まれ孝作は中国人によって殺されてしまいます。
殺した相手のところにひとりで乗り込んで相手に復讐した辰也は矯正院送りに。出所後シンガポールに戻った辰也は裏の社会で徐々に名をあげ、やがて日本人街のボスになりナイトクラブを経営、「裏総督」と呼ばれるギャングスターに登りつめます。
しかし日中戦争から中国の犯罪組織と抗争になりさらに太平洋戦争が始まり・・・。
少年の成長譚としても犯罪小説ギャング小説としても一級品です。マレー半島でハリマオと言われた谷豊や、寺内寿一陸軍大将など実在の人物も登場するスケーツの大きな大河冒険小説です。
楡周平 / 猛禽の宴
過去に結果はあっても可能性のかけらもない。
デビュー作「Cの福音」に続く悪のヒーロー朝倉恭介シリーズの2作目。「Cの福音」も優れた作品ですが、この作品の方がアクションの要素が強く外国の冒険小説のような雰囲気に惹かれますね。
本作はニューヨークのイタリアン・マフィアの抗争が舞台。新興組織に縄張りを荒らされ相手の殲滅を主張する部下のコジモを、組織のボスであるファルージオは抑えいさめます。
しかしボスの座に野心を抱くコジモはその命令を無視、相手の排除を強行しますがその結果報復としてファルージオが襲撃を受けます。
なんとか一命は取り留めましたがファルージオは瀕死の重傷を負い、その機に乗じたコジモは強引にボスの座を奪いファルージオの庇護のもと恭介が築き上げた裏ビジネスを自らの手中に収めようと画策。
ファルージを父とも慕う恭介は復讐へと立ち上がり・・・。圧倒的な表現力と際立った人物造形が読ませる作品に仕上がっています。ハズレのない作家ですね。
秋山鉄 / ボルトブルース
この一週間毎日のように弱気の虫が起き、逃げることを考えない日はなかった。何か正当な理由があれば。例えば腕を骨折するとか誰かが工場をに爆弾を仕掛けたと脅迫するとか、ラインを管理するコンピューターがパンクするとか。そうすれば休むことができる・・・。
小説新潮長編新人賞受賞作「居酒屋野郎ナニワブシ」2作目の「ころがる石のゆくえ」そして本作と、3作だけを残し断筆したのか忽然と姿を消した 秋山鉄の傑作長編。
主人公は失業保険の給付が切れても就職の目処も立たず目的もない野崎。そんなとき職安で知り合った中条に「若いんやから好きなことをやれ」と言われバイクで北海道を目指そうと決意。
しかし野崎の前に立ちはだかるとてつもない大きな壁それは「金」!
給料のいい派遣工として働いて金を貯めようと決心してやって来たのが、愛知県にある「ニッパツ自動車刈南工場」
ホッとしたのもつかの間そこで配属されたのは最終ライン。この2週間で7人が逃げ出したもっともキツい部署で通称「地獄ライン」!
そのキツさは「2日目にして右腕はとうに限界を突き破っており、自分のものではないようになっている」という凄まじいもの。
逃げることを考えない日はない地獄の日々も大男や京大に宮本やガイコツなど。仲間たちにも恵まれなんとか契約の半年間をやり抜きます。そして最終日の終業のベル。喜びを爆発される派遣工たち。
「えらい喜びようやないか、何が嬉しい」野崎の問いに京大は答えます。
「何もかもだ。まったく何もかもだ。その気になればまだまだやれるぞ!」
爽快感とカタルシスが読み手の心を熱くするシーンです。そして念願のバイクを手に入れ町を去る野崎の目には涙が・・・。
書評家の北上次郎が2001年ベスト1に選んだ名作!忘れていたことを思い出すような何かにチャレンジできそうな、そんな思いを抱かせる読ませる小説です。
真山仁 / ハゲタカ
夕陽は明日の希望ではなく、絶望という闇の始まりに過ぎない。ここは絶望の大陸そんな歌があったな。絶望けっこうじゃないか。それが俺たちの餌になるんだから。
シリーズ累計200万部を突破した真山仁の大ベストセラーの第1作。バブル崩壊後の日本を舞台にハゲタカと言われた外資系投資ファンド。そしてそのファンドマネージャー鷲津政彦を主人公にした作品。
大手銀行の不良債権処理や冷酷なまでの企業買収を描く経済小説でありながら、冒険小説の要素もたっぷり詰め込んだ壮大な人間ドラマでもあります。
シリーズは1作目の本作に続き「ハゲタカII」「レッドゾーン」「グリード」そしてスピンオフ作品である「ハゲタカ外伝スパイラル」の5作ありますが、どれを取っても引き込まれる面白さ!
シリーズの魅力は何と言っても主人公鷲津政彦のキャラクターにあります。170センチに満たない小柄な体に特徴のない顔だち。着ているスーツも仕立ては良さそうだが彼が着ると安っぽく見える。
大阪船場の商人の家に生まれジャズピアニストを目指し渡米するも挫折、しかしその風貌とは裏腹にアメリカ最大の投資ファンド「KKL」でゴールデン・イーグルと異名を取るほどの凄腕ファンドマネージャー。
そして「日本を買い叩く」と豪語して緻密な計算のもと闘いに挑む姿が描かれています。脇役もすべてひと癖ある人物ばかり。
シリーズはまだ続くようで1冊読むと次が読みたくなるノンストップの面白さです。
落合信彦 / ただ栄光のためでなく
「世の中にギャンブラーと呼ばれる男はたくさんいますが、”ザ”がつくのは彼だけです」
経歴詐称やゴーストライター説など、問題視されることも多く一部ではカルト扱いされている著者初の長編小説。
この作品も間違いが多く指摘されていますがはそんなことはどうでもいいと思えるほどの名作ですね。
読むにつれてこんなエキサイティングでロマンチックな人生を歩めたらと、グイグイ物語に引き込まれます。
エクアドルの大油田を発掘し一躍オイル業界で「ザ・ギャンブラー」と恐れられた佐伯剛。
その佐伯の孤児だった少年期から単身アメリカ留学、そして大学での生涯の友との出会いそしてビジネスでの成功と挫折。愛する人との非情な別れと苦悩。
もう面白い要素がこれでもかと詰まった贅沢な作品です。そして優れた小説がそうであるように個性的で魅力的な脇役がこの作品を魅力的なものにしています。
佐伯を副社長に引き上げた「プログレスオイル社」の創業者で口は悪いが情にもろいデヴィッド・フェンシュタイン。どんなジャイアントも嗅ぎつける天才的な嗅覚を持ったハンス・ザ・スメラー。
佐伯の親友でモサドの局員サイモン・シラーなど多士済々の面々がストーリーを彩ります。シニカルにならないでまっすぐ生きたらどうだ?
そんなことを問いかけてくる人生に節目節目に読みたくなる作品です。
志水辰夫 / 背いて故郷
「おかあさん、あなたの残された時間が限りなく安らかであるように祈らせて下さい。あなたに贈る言葉がありません。やっぱりわたしは生まれてくるべきではありませんでした」
シミタツ節と言われている独特の文体で熱狂的ファンの多い志水辰夫の傑作小説です。スパイ船の船長で一等航海士の柏木は、友人の成瀬に船長を譲って日本を出て海外へ。
しかしその成瀬が停泊中の船で殺され柏木は数年ぶりに日本に戻って来ます。成瀬の死の真相を探るうち彼が特殊な任務を背負い背後に陰謀があることを知った柏木は・・・。
追う方と追われる方が入れ替わり、二転三転するハラハラドキドキのストーリー。そしてセンチメンタリズムをギリギリまで抑制した文体。
シミタツ節には毎回唸ってしまいますね。たったひとりで立ち向かって行く柏木にいつの間にか感情移入しているのに気づき・・・ラストは泣きます。
馳星周 / 不夜城
俺は中国人でも日本人でもない。ある奴は俺をコウモリだと言った。暗闇をひたすら感だけでひたすら飛び回って生き延びるコウモリだ。
冒険小説の中でスパイものや探偵ものと並び暗黒ものというカテゴリーを確立した記念碑的作品。
リー・チーガイ監督金城武主演で映画化もされましたね。中国マフィアというそれまでになかった題材を克明に描いたショッキングな作品でした。
馳星周の前には花村萬月がこの雰囲気に近い作品を発表していますが、馳星周の方がよりエンタテインメント性が強く多くの読者に支持されました。
新宿歌舞伎町を舞台に日本と台湾のハーフで故買屋の劉健一が主人公。ある日健一のかつての相棒で上海系マフィアのボス元成貴の部下を殺して姿を消した呉富春が戻って来たとの情報が。
元は健一に3日以内に富春を引き渡すよう命じます。そこの夏美という女が富春を売りたいと健一に近づいて来ます。
健一は夏美を利用して富春を殺そうと画策するが・・・。とにかくまったく救いのない小説です。登場人物も隙があれば相手をカモろうとする人間ばかり読後のカタルシスもなし!
しかしエネルギッシュな展開で読み手をグイグイと引き込んで行きます。とにかくすごい!そんな作品です。
垣根涼介 / ワイルド・ソウル
その地に着いたときから地獄が始まった・・・。
2004年吉川英治文学新人賞、大藪春彦賞、日本推理作家協会賞をトリプル受賞した垣根涼介の衝撃作。
1961年日本政府の募集により日系アマゾン移民となった人々の悲惨な生活と政府に対する復讐を描いた問題作です。
日本からアマゾンに渡った衛藤は入植地が密林で、強酸性の土壌は農業が営める環境ではないことを知り愕然とする。
移民たちは飢えと病で次々と命を落としますが、懸命に生き延びた衛藤は友人の息子ケイを引き取り一緒に暮らし始めますが、あることがきっかけとなって日本政府と外務省に復讐を誓います。
そして年月は流れ日本にやって来たケイは・・・。前半は著者が現地での取材に基づいた外務省の棄民政策の悲惨さに、胸が押しつぶされそうなくらいに描かれます。
後半いよいよ復讐劇の幕が開きます。もうここまで来たらページをめくる手が止まりませんよ!
外務省の人を人とも思わないずさんさには憤りを感じますが、今でも変わっていないような気がしますねぇ。
一読に値する傑作冒険小説です!
今野敏 / 隠蔽捜査
「警察の幹部を守ることが警察を守るということなのか?」
「そういう場合もある」
「違う。そんなことは決して警察のためにはならない」
吉川英治文学新人賞を受賞し今野敏が一躍ブレイクした警察小説です。
それまでの警察小説は刑事が事件を追うというのがひとつのパターンでしたが、この作品は本の帯に「新・警察小説」とあるように事件と共に警察内部の対立や葛藤など、警察組織そのものを描いた作品でもあります。
特に主人公竜崎のキャラクターは強烈ですね。原理原則を絶対の行動規範とし、不正を許さずあくまで職務に忠実であろうとする。
これはある意味組織として場合によっては迷惑な存在になりますね。そんな人間が警察組織の中にいたらどうなるか!それがこの作品の大きな骨子となっています。
まったく新しい視点の小説だと言えますね。警察庁と警視庁そして内部の軋轢それがドラマとなって引きつけますがそれだけではありません。
この作品は感動の家族小説でもあります。これはもうたっぷりと堪能できる作品ですよ。
北方謙三 / ブラディドールシリーズ
冬は海からやって来る。毎年それを見ていたかった。だが友よ人生を降りたものにも闘わなければならないときがある。夜、霧雨、酒場。本格ハードボイルドの幕が開く。
トリを取るのはこのシリーズしかありません!他の作品は単一でしたがこれに関してはシリーズすべてをひとつの作品としてどうしても考えたい!・・・単なるワガママですが。
北方御大と言えば若い世代の読者には「三国志」や「水滸伝」など中国の歴史物を書いている作家というイメージが強いようですね。
しかし何と言っても御大の作品は日本が舞台のハードボイルドにとどめをさします。そしてこのシリーズは中でも北方ハードボイルドの金字塔とも言うべき作品です。
「さらば荒野」
「碑銘」
「肉迫」
「秋霜」
「黒銹」
「黙約」
「残照」
「鳥影」
「聖域」
「ふたたびの荒野」
全10作からなるシリーズ。港町N市にある酒場「ブラディドール」を舞台に、オーナーである川中とかつての親友で弁護士のキドニー、そしてバーテンの藤木この3人を軸に物語は進んで行きます。
1作目と最後の作品は川中が主人公ですが2〜9作は、「ブラディドール」に惹きつけられたように街にやって来る男たちが主人公になっています。
川中と藤木の殺しを請け負った刑務所帰りの若い男「碑銘」。フロリダで妻を殺され復讐を胸に帰国した男とその娘「肉迫」。
若い恋人と旅行にやって来てトラブルに巻き込まれ、自分の中の男が目を覚ます初老の著名な画家「秋霜」。
おしゃべりだが凄腕の殺し屋と惚れた女と堕ちて行った過去を持つジャズピアニスト「黒銹」。闇診療も引き受ける天才外科医「黙約」。
自分の前から黙って消えた女を追って来た影のある男「残照」、離婚した妻と息子を助けようとやって来た暗い過去を持つスーパーの経営者「鳥影」、家出した生徒を探しに来た走り屋の高校教師「聖域」。
もうどの人物も一筋縄では行かない魅力的な男たちばかり!熱狂的なファンが多いのもこのシリーズの特徴で、この作品にちなんで「ブラディドール」という店名をつけたバーが私が知るだけで全国に3店舗あります。
そして何よりもこのシリーズは名セリフの宝庫と言ってもいいくらい男の何かを揺さぶるようなセリフが各作品に散りばめられています。
藤木に拳銃を貸してくれと頼む川中
「こっちの方が君の手に馴染んでいるんじゃないのか?」
「だからお貸しするんです。手に馴染んだ拳銃というやつはときどき持ち主の意志を早く読みすぎたりしますから」
「さらば荒野」
「誰かに乾杯するという気分になれないが」
「それでも乾杯しようじゃないか、海にとか風にとか冬の寒さにとか」
「肉迫」
シブすぎる!
荒波の海を渡り断崖をよじ登りただひとりで身を隠す恋人に会いに行く初老の画家。たったひと言だけを伝えるために。
「私がいる」
「はい」
「お前には私がいる。それだけを伝えておきたかった」
「先生が?」
「お前には私がいるんだ。どれほど助けてやれるかは分からない。私の命の分、それだけお前を助けられる」
「秋霜」
一度は言ってみたいよ!
クルーザーでトローリング中、怪物と言われる魚と格闘するピアニスト。数時間の格闘で顔色がどす黒く変化するのを心配したホステスの瑛子が川中に。
「やめさせてよ。やめさせて下さい」
「ここまで来たら結果がどうなろうと最後までやるしかない」
「でも」
「いいんだ。負けるにしたって男には負け方ってやつがある」
「社長、相手は魚なんですよ。ここでやめたってどうなるものでもないのに」
「魚じゃないさ。もう魚じゃない・・・」
「黙約」
「藤木で死ねますか」
「黙約」
「じゃあ俺」
「ふたたびの荒野」
読んだ方にはわかりますね。ただ涙・・・。
今までかなりの人におすすめしましたが、読んだ人は全員ハマる作品です。どうです?ハマってみませんか?
まとめに名を借りた言い訳
海外編もそうでしたがやはり10冊は悩みますね。じゃあもっと書けば?という問いはスルーすることにして。
前回同様船戸与一も大沢在昌も福井晴敏も高村薫も原寮も真保裕一も出てこないのはけしからん!
とお怒りの方には伏して申し上げます。
ごめん!