泣ける小説は体にいい!
映画やドラマは映像や音楽が目や耳からダイレクトに入って来るので、哀しい場面や感動的なシーンでは否応なく観る側の感情に訴えますが。
文字の世界は読む側のイマジネーションも重要になりますね。
それは書き手と読み手の共同作業のようなもので、両方の感性が一致した時読み手の中で感動が喚起されるとも言えそうです。
そして涙を流すことは体にもいいんですよ!感情を突き動かされて流す涙には毒素が含まれデトックス効果があり、涙の成分「リゾチーム」は目の殺菌作用が。
そして涙を流すと「エンドルフィン」が放出しネガティブな感情になる「マンガン」が減少することも科学的に証明されています。
まぁそんな難しいことはさて置いて「読んで損はなし」の泣けるおすすめ小説はこちらです。
「プリズンホテル 春」 浅田次郎
直木賞作家浅田次郎初期の傑作シリーズで1993年「夏」から始まり94年の「秋」95年の「冬」、そしてシリーズ最終作が97年に発表されたこの「春」です。
浅田次郎は泣ける作品の多い作家で大作「蒼穹の昴」や直木賞受賞作「鉄道員(ぽっぽや)」「天切り松 闇がたり」「天国までの100マイル」など枚挙にいとまがありませんね。
しかし笑って泣いての人情喜劇であるこの作品こそ浅田次郎の原点だと思います。
さてこのシリーズですがヤクザが経営するリゾートホテルが舞台の群像劇で、経営者の甥である小説家木戸孝之介が狂言回しとなってストーリーは展開します。
「春」はコンピューターの入力ミスでなんと52年もの長きに渡って服役していた元ヤクザと、倒産寸前の中小企業経営者、天才と言われたフレンチシェフそして主人公木戸孝之介の再生物語。
心に傷を抱えてやって来る宿泊客とそれを癒すプリズンホテル流のおもてなし。そんな人々の織りなすドラマに暖かい涙が流れ出す作品です。
涙指数 ★★★★☆
「日曜日の夕刊」 重松清
浅田次郎と同様重松清も泣ける作品の多い作家で「とんび」や「その日のまえに」など感動作を次々と送り出してますね。
そこで少しひねりを加えてここではこの作品をチョイスしてみました。12の物語で綴られた短編小説ですが、どの作品も読み手の琴線に触れる佳作揃いです。
人々の平凡な日常を描きながら読み進めるほど心が揺さぶられる、重松清の圧倒的筆力を堪能できる作品です。
涙指数 ★★★☆☆
「東京タワー オカンと僕と時々オトン」リリー・フランキー
リリーさんの名を世に知らしめ200万部を突破した超ベストセラー!
この作品は母が亡くなった病院の同じフロアに入院中、院内の図書館から借りて初めて読んだのですが。
シチュエーションからストーリー展開まで当時の私にとっては泣く要素がすべて揃っていて、ひとり病室で号泣してしまったのをよく覚えています。
オカン。
あれから、何年か経ったけど、今でもボクは淋しいてたまらんよ。
なにかっちゅうて、いつもオカンの姿を思い出しよる。
飯食いに行って旨いもん食うたり、新しい店を見つけるたんびに思いよる。
オカンくらいの年のおばあさんが友達と旅行しよるとこやら見かけたら、なんで生きとる時にもっといっぱい旅行させてやらんかったやろうかって後悔してから、いつも涙が出る。
今読んでも、いつ読んでもページをめくる度に泣いてしまう傑作です!
涙指数 ★★★★★
「永遠の0」 百田尚樹
この作品も大ベストセラーで話題になった作品ですね。のちに映画化され日本アカデミー賞を総ナメしたことでも話題になりましたね。
出版社に勤める佐伯慶子と弟の健太郎が実の祖父が太平洋戦争で特攻隊員として戦死した宮部久蔵であることを知り、その足跡を追って行くという形でストーリーは進んで行きます。
そこで様々な人から知らされる戦争の現実。作者は海軍上層部が若い海軍士官をはじめ予備学生や予科練出身の下士官たちの命をいかに使い捨てにしていたかを丁寧に淡々と描きます。
一部の評論家や監督から戦争を賛美していると批判の声が上がりましたが、これは戦争がいかに愚かなものであるかを描いた感動作品であるのは間違いないですね。
涙指数 ★★★☆☆
「沈まぬ太陽」 山崎豊子
「白い巨塔」や「華麗なる一族」の著者で社会派作家山崎豊子の傑作。
文庫本で5冊という大長編ですが読み始めたらグイグイ引き込まれること間違いなし!
日本航空がモデルと思われるナショナル・フラッグを舞台に労働争議や御巣鷹山の墜落事故そして経営破綻から再生まで。
数多くの関係者に綿密な取材を重ね「フィクション」として再構築された重厚なドラマで特に「御巣鷹山編」は人の命の重さが伝わり涙なしに読むことができません!
どう考えてもJALがモデルだと思われますが著者の山崎豊子は正式には認めませんでした。
また「週刊新潮」に連載中JALは機内に雑誌を置くのをやめていたというエピソードも有名ですね。
涙指数 ★★★☆☆
「しゃぼん玉 」 乃南アサ
「あまりにも貧しい魂があまりにも美しい魂に出会うとき奇跡は起きる」
親に見捨てられ自暴自棄になってひったくりや強盗を繰り返してきた翔人は、逃亡中ヒッチハイクで宮崎県の集落に流れ着き偶然怪我をした老婆スマを助け世話になることに。
そこでスマや翔人をスマの孫だと勘違いした村人たちと触れ合うことで、翔人は徐々に心を開き始め・・・。
ベタなストーリーのようですが乃南アサの筆力によって「ありふれたお話し感」はまったくありません。
自分を必要としてくれる人がいて居場所があることの大切さ、それがあれば人は変わることができるんだ。
そんなことを感じさせてくれる感動の一冊です。
涙指数 ★★★★☆
「聖の青春」 大崎善生
29歳という若さで亡くなった棋士の村山聖と師匠である森信雄7段との暖かくも切ない師弟愛、そして「東の羽生、西の村山」と並び称された羽生善治名人とのライバル関係を描いたノンフィクション。
現実は時として小説よりも壮大なドラマを生み出すことがあると再認識させられる涙腺崩壊必至の作品です。
幼い頃に腎臓の難病であるネフローゼを患い入院中に将棋を教わり、朝から晩までずっと指し続け中学1年のとき森7段に弟子入り。
この師弟の絆が本当に暖かいんですね。師匠の家で同居した聖ですが病気のためたびたび高熱を出す弟子を師匠は親身になって世話をします。
「重い腎臓病を抱え命がけで将棋を指す弟子のため、師匠は彼のパンツをも洗った」と本の宣伝文句にありましたが、この師弟愛という言葉も軽く聞こえるようなふたりの結びつきが読み手の心を突き動かすんですね。
そしてライバル羽生善治との対局・・・しかし彼は27歳のときネフローゼに加え進行性ぼうこう癌を発症2年後その短い一生を終えました。
もう何度も再読した作品ですが読むたびに聖のひたむきさに涙するそんな一冊です。
涙指数 ★★★★★
「キネマの神様」 原田マハ
「この奇跡の物語をあなたは読み逃していませんか?壊れかけた家族を映画が救う感動の物語」本の帯のこの文章だけで読み始めた作品。
作中にはたくさんの映画が登場し読書好きで映画マニアの私にはもうたまらん!という一冊ですね。
稼ぎのほとんどをふたつのことに費やすダメな父。ひとつは「ギャンブル」そしてもうひとつは「映画 」。
そして自分はバリバリのキャリアウーマンだと信じて疑わない父に退職したことを告げられない娘。
このふたりのやり取りがほのぼのとして良いのですが、特筆すべきはダメ親父のキャラクター造形の秀逸さ!
ギャンブルで借金は作り挙句に心臓の病気で倒れ家族の迷惑をかけてばかりなのに何故か憎めないダメ親父。
しかしそんな家族に数々の奇跡が・・・。映画を通して親子愛や家族の絆が深まって行きます。
読み終わってじわっと暖かい涙が流れる、そんなハートウォーミングな映画好きには特におすすめです。
涙指数 ★★★★☆
「出口のない海」 横山秀夫
警察小説の印象が強い横山秀夫が描く戦争小説の力作が本書「出口のない海」。
甲子園の優勝投手並木は大学に進学後に肩を故障し復活をかけて懸命に努力していましたが、戦況が悪化しついに学生への徴兵猶予が取り消しそして学徒出演へ。
海軍に志願した並木はそこで自分と同じように愛する人や故郷を守るため出陣してきた若者たちと出会います。
敗色濃厚の中海軍は「回天」を兵器としての採用を決定。定員1名の回天で敵艦に体当たりして戦果を得る、もうこれは兵器というより自爆装置といった方が良さそうな無謀で愚かな作戦を遂行します。
この究極の任務に様々な思いを胸に秘めながら志願する並木・・・。
前記した「永遠の0」も特攻隊員を主人公にした物語ですが、本書は主人公の並木自身の視点で描いているのでひとりの若者の愛や苦悩が悲壮感を持って読む側に伝わります。
決してふたたび帰ることができない「出口のない海」。
哀しみと怒りがこみ上げ思わず涙してしまう良作です。
涙指数 ★★★★☆
「二千七百の夏と冬」 荻原浩
コメディーからミステリーまで幅広い作風の直木賞作家荻原浩ロマン溢れる作品。
2011年ダムの建設予定地で10代半ばと推定される縄文人男性の人骨が発見されますが、発掘が進むと隣にもうひとり弥生人と推定される女性の人骨が。
ふたりは手を重ね顔を向き合い寄り添った状態で横たわっていました。そして驚くべきことに縄文人の左手には米の稲と思われるものが握られており・・・縄文時代と弥生時代が交差するときこのふたりの男女に何が起こったのか?
物語は縄文人ウルクと弥生人カヒィのロマンスとこの問題を連載企画にしようと調べる新聞記者佐藤香椰とが交互に描かれ、縄文時代や弥生時代の生活を垣間見る歴史小説としての側面と、恋愛小説にミステリー的要素を加えた作品に仕上げた荻原浩の作家としての力量に圧倒される作品に仕上がっています。
物語は縄文人ウルクと弥生人カヒィのロマンスとこの問題を連載企画にしようと調べる新聞記者佐藤香椰とが交互に描かれます。
個人が主体で狩猟で糧を得る縄文人と稲作中心の農耕で糧を得ながら集団生活をする渡来系弥生人。
そして2700年前から存在していた異文化との遭遇による偏見や差別なども丁寧な筆致で描かれ、それがふたりのロマンスをよりもの悲しくなって行きます。
縄文と弥生時代の人びとの暮らしなど興味津々で読み進めラストは泣ける!これもおすすめの作品ですね。
涙指数 ★★★☆☆
またまたまとめのような言い訳
冒険小説「国内編」「海外編」に続く第3弾ですが前2回同様かなり迷いました。「今回もなんであれが入ってないねん!」とお怒りの声をあるでしょうがどの作品も読んで損はない佳作であることは間違いありませんよ!
それでは「読み始めたら〜」シリーズ第4弾をお楽しみに!!!
いつになることやら・・・。