藤山寛美
この不世出の天才喜劇役者の全盛期を知っているのは、私が最後の世代になるのでしょうか?
1948年19歳で「松竹新喜劇」に参加、最初はもちろん端役でしたが1951年の舞台「桂春団治」において藤山寛美の名は一躍有名になりました。
渋谷天外演じる主人公桂春団治に、ツケを取り立てに来る酒屋の丁稚役の藤山寛美に与えられたセリフはたった一行「ツケを払うとくんなはれ」。
しかし本番の舞台で藤山寛美は思わぬ行動に出ます、なんとここで寛美は主役の渋谷天外を向こうに回し延々とアドリブでやり取りを続けました。
それが寛美の持ち芸であるちょっとオツムの弱い役の始まりで、この舞台で観客の心をがっちり掴むことに成功したのです。
藤山寛美の名は全国区になり松竹新喜劇は常に大入り満員、連日多くの観客で賑わうようになり、そしてこの頃から後に伝説となる彼の放蕩生活が始まりました。
当時は豪快な遊びで知られる芸人さんも多く大阪にはこんな言葉があったそうです。「キタの雄二にミナミのまこと、東西南北藤山寛美!」
雄二とはミヤコ蝶々さんと夫婦漫才で一世を風靡した南都雄二。
まことは「てなもんや三度笠」で人気絶頂だった藤田まこと。共に遊び人で有名でしたがその遥か上を行くのが藤山寛美だったんですね。
しかもその数々のエピソードがなんとも凄い!
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飲みに行くとき財布には常に現金で300万円持ち一晩で800万円使ったことも!今なら数千万円になるでしょうね。
銀座のクラブの開店祝いにと祇園の舞妓さんたちを連れ、新幹線のグリーン車を貸しきって上京したり、いつもよくしてくれているクラブのドアマンにチップとしてなんと車一台をプレゼント!
初乗り100円の頃タクシーに乗るとワンメーターでも必ず1万円の支払いなど。
しかしこれらの放蕩には寛美独特の計算があったようですね。
車のチップに関しては「寛美が来たと噂になるにはその店に5~6回は通わなくてならないが、車を一台贈るとすぐに噂になり、そのうち何割りかは舞台に足を運んでくれる。宣伝費としては安いものだ」
タクシーのワンメーターに1万円も噂を広め舞台の宣伝にしようと思っていたようですね。
その他にもクラブでホステスさんの着物にわざとお酒をこぼし、お詫びにとその場にいた全員に着物をプレゼントしたこともあったそうですね。
そんな放蕩の限りを尽くせば借金が雪だるま式に増えるのも道理で、37歳のときには今の貨幣価値にして13億の借金があったと言います。
当然返済は滞り借金取りは舞台袖や劇場のロビーにまで溢れとうとう彼は松竹新喜劇を解雇されてしまいます。
それは現在女優として活躍されている藤山直美さんの小学校入学の当日だったそうです。
しかし寛美を解雇してからの松竹新喜劇は客足が遠のき、チケットの値段を下げたり様々な手段を講じますが遠のいた客足は一向に戻らず、結局松竹は借金を肩代わりすることを条件に寛美を呼び戻しました。
復帰してからの寛美のは舞台にすべての情熱を注ぎ、世界の演劇史上でも類を見ない244ヶ月連続無休公演という記録を打ち立てました。
そして1990年5月21日稀代の天才喜劇役者藤山直美は肝硬変のためこの世を去りました・・・享年60。
実は私は生前の寛美さんと一度だけお会いしたことがあります。知人から麻雀の誘いを受けて行ってみるとなんとメンバーのひとりに寛美さんがおられました。
さすがに最初は緊張しましたが実に気さくな方で、すぐにリラックスして打つことが出来ました。
途中で「小腹が空いたな。マスターうなぎでも取ってんか」と祇園の有名店の特上のうなぎをなんと雀荘にいる人全員に振る舞われとき「これが藤山直美か・・・」と噂に聞いた豪遊伝説の一端に触れたような気がしたのが鮮烈な記憶となって心に残っています。
亡くなったやしきたかじんさんも藤山寛美に憧れ遊び人としての彼を目指しておられたのはよく知られているところです。
また月亭八方さんが借金に苦しんでいるのを聞いたとき楽屋に突然やって来て「これ使うてや」と現金2千万円入りのバッグを渡そうとしたのも有名な話しですね。
さすがに受け取らなかったそうですが「僕の借金はこれくらいあっても追っつかへんから」と笑ってらしたそうですね。
その借金ですが結局19年掛けて返済されたそうです。
最後にダウンタウンの松本さんが著書「松本」で藤山寛美への思いを語っている部分を紹介します。
「俺の好きな役者に藤山寛美という人がいる。ご存知松竹新喜劇の座長で平成2年に亡くなられるまでの間、連続244ヶ月の舞台をやってのけた人物である。俺は今でもこの人のビデオをよく観るが何度観ても飽きない。こういう人こそ芸で人を笑わせる人だと思う」
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