音楽映画とミュージカルの違いは?
音楽映画とミュージカル映画はしばしば混同されるようですが、このふたつには明確な違いがあると私は思っています。
音楽映画が例えばジャズプレイヤーやロックスター、そしてクラシックの音楽家の伝記映画やドキュメンタリーであったりと、音楽に携わる人々を描いた作品が多く演奏シーンとドラマシーンが別のものとして物語を形成しています。
「グレン・ミラー物語」や「ベニー・グッドマン物語」ドキュメンタリーで言えばビートルズの「レット・イット・ビー」などがこれにあたりますね。
それに対してミュージカル映画は本来ありえないシチュエーション、つまり主人公が街角で突然踊りだしたり、歌い出すことをあらかじめ観客が了解した上で楽しむ作品。それがミュージカル映画です。
「バンド・ワゴン」や「イースター・パレード」などMGMの数々の名作がこれに当たります。そこで今回は音楽映画のジャンルで今も印象に残る魅惑の映画を選んでみました。
まずはこちらから!
コットン・クラブ
1984年に公開された巨匠フランシス・フォード・コッポラ監督作品。
20年代から30年代にかけてニューヨークのハーレムに実在した高級クラブ「コットン・クラブ」を舞台に、ショービジネスの裏側やギャングの抗争を描いた名作。
オーナーであるオウニー・マドゥンや当時のギャングスター、ダッジ・シュルツやラッキー・ルチアーノ、バンピー・ジョンソンなど。
実在の人物を交えた物語で、こちらも実名で登場するデューク・エリントンや、キャブ・キャロウェイなど。
ジャズの名曲揃いで、ゴージャスな映像と音楽映画としても骨太のドラマとしても、かなり高水準の作品に仕上がっています。
こういう映画を撮らせたらやはりコッポラは凄い!素直にそう思える1本です。
アメリカン・グラフィティー
ジョージ・ルーカス監督作品!1973年に公開され1995年アメリカ国立フィルム登録簿に永久保存登録された名作。
「1962年夏、あなたはどこにいましたか?」が公開時の、キャッチフレーズで、オープニグの「ロック・アラウンド・ザ・クロック」に始まりDJウルフマン・ジャックの声に乗せて流れる曲の数々。
バディー・ホリーやプラターズ、チャック・ベリーにビーチ・ボーイズなど、オールディーズファンにはたまらない曲ばかり!
無名時代のハリソン・フォード出演していることでも話題でしたね。今観ても胸が熱くなる名作です。
American Graffiti / 「アメリカン・グラフィティ」
ローズ
観終わったあと少しのあいだ映画館の椅子から立つことが出来ないという衝撃を、生まれて初めて味わった忘れがたい作品です。
ベッド・ミドラーの圧巻のパフォーマンスと存在感!そして作品のクオリティーどちらも文句なしの名作です。
主題歌が有名ですが、何と言っても最後のステージで歌う「ステイ・ウィズ・ミー」は何度聴いても鳥肌が立ちます。
1979年には監督のマーク・ライデルは同じベッド・ミドラー主演で、「フォー・ザ・ボーイズ」という優れた音楽映画も作りました。
こちらも「ローズ」に負けず劣らずの名作で音楽も素晴らしいのですが、やはり初めて観た時の衝撃で「ローズ」に軍配が上がりますね。
五つの銅貨
1959年制作の映画ですが今も色あせることない掛け値無しの名作です。
実在のコルネットプレイヤー、レッド・ニコルズの半生を描いた作品でダニー・ケイの名演と、奥さんのシルビア・ファインが作詞作曲し、映画のタイトルにもなった「ファイブ・ペニーズ」を始めとする名曲が作品を彩っています。
ダニー・ケイ扮するレッド・ニコルズと実名で出演している、ルイ・アームストロングがデュエットする「聖者の行進」。
そして新曲の譜面を渡されたメンバーが、それぞれのパートを口ずさんでいるうちに、いつの間にかスキャットでのセッションになるシーン。
ダニー・ケイと娘役のスーザン・ゴードンそして、ルイ・アームストロングが同じコード進行の「グッドナイト・スリープタイト」「五つの銅貨」「ララバイ・イン・ラグタイム」という違う3曲を同時に歌うシーンなど。
今観ても心暖まるほのぼのとした名シーンの数々が、観る人の胸の残ります。音楽映画としても、男の再生ドラマとしても優れた作品ですね。
ちなみに三谷幸喜さんはスキャットセッションのシーンを観て、脚本家になろうと決意したそうです。
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ
ライ・クーダーがプロデュースし1997年に、グラミー賞を獲得した同タイトルのアルバムを元にヴィム・ヴェンダースが制作と監督で2000年に公開された音楽ドキュメンタリー映画の傑作!
私がこの映画に興味を持ったのは、イラストレーターの沢野ひとし氏が著作「昼寝主義」の中で紹介されていたのがきっかけでした。
著書の中で沢野氏はこの作品について、こう語っておられます。
映画を観ながら、僕はやるせない気持ちでいっぱいになり、涙が止まらなかった。
登場するミュージシャンたちの表情が、とにかく魅力的で「生きていくことはつらいけど楽しいよ」といった会話の一つ一つが胸に沁み、涙が流れるのだ。
(中略)
その彼らがニューヨークのカーネギーホールで旅のフィナーレを飾り、超満員のホールに大合唱がこだまし、拍手が鳴り止まないシーンでは、僕もまた至福の時を胸いっぱい共有していた。
初めて触れるキューバの音楽には感動しました。とにかく音楽の素晴らしさを堪能出来ます。シガー片手にラムでも飲みながら、酔いしれたい映画ですね。
スクール・オブ・ロック
ツッコミ所が山盛りです。観ながら「そんな訳ないやろ!」「そんな奴はおらんやろ!」とか言いたくなります。
しかし観終わったら気持ちがポカポカ暖かくなる・・・そんな作品です。
長過ぎるソロパートと過激過ぎるパフォーマンスで、バンドをクビになったギタリストが友人になりすまし私立学校の臨時教師に。
厳格な規律の学校で生徒たちは無気力でしたが、音楽の才能に気づいた彼は生徒たちとバンドを組んでコンテスト出場を目指し猛練習を開始します。
ダメな大人が子供たちによって再生して行く、言って見ればロック版「頑張れベアーズ」のような作品に仕上がっています。
やはりこのジャンルはハズれがないのがアメリカ映画の特徴ですね。大いに笑って最後にキュンとなる作品。ジャック・ブラックの怪演が大いに笑わせてくれますよ。
スクールオブロック School Of Rock 2003
バード
クリント・イーストウッド監督の才能を世に知らしめた作品。
監督デビュー作「恐怖のメロディー」でもジャズの名曲「ミスティー」を効果的に使うなどジャズファンとして知られていましたが、この作品では「モダンジャズの父」と呼ばれたチャーリー・パーカーの生涯を描いています。
酒と麻薬に溺れ35歳でこの世を去った天才的な演奏家を、イーストウッド監督は淡々としたタッチで追って行きます。
「許されざる者」や「グラン・トリノ」「ミリオンダラーベイビー」と続くイーストウッドタッチの原点がこの作品だと言えますね。
暗くて重いテーマですがパーカーの演奏とその短い生涯が余韻となって残る印象深い作品です。
Clint Eastwood "Bird" Charlie Parker Story
ソウル・ガールズ
オーストラリアの先住民族アボリジニの女性コーラス・グループ「サファイアズ」の実話をもとにした作品。
アボリジニ居住区で育った3姉妹とその従姉妹は、カントリーミュージックが大好きでオーディションにチャレンジしますが、アボリジニへの差別から落とされてばかり。
そんなある日オーディション会場で出会ったデイブに「黒人がカントリーを歌うのは奇妙だ」と言われます。「じゃあ何を歌えばいいの?」と聞く彼女たちにデイブは言います。
「今ある90%の音楽はクソッたれだ!残り10%がソウルだ!カントリーもソウルもテーマは喪失だが、カントリーは諦め故郷に帰って嘆き暮らす。しかしソウルは取り戻そうと闘う、失ったものを求めて必死に手を伸ばす」
そしてこう付け加えます。「君らをアポロシアターへ連れて行く!」デイブの指示で歌やダンスのレッスンを積んだ彼女たちはソウルコーラスグループ「サファイアズ」へと変身して行き・・・。
単なる被差別者の成功譚というありがちな枠を超えて、観る者に爽快感を与えるストーリー展開がこの映画のキモだと言えます。
そして何よりも全編に流れるモータウンサウンドに酔いしれたい作品です。
エディット・ピアフ 愛の讃歌
伝説のシャンソン歌手エディット・ピアフの波乱の人生を描いた映画。
心が震えるような作品です。生きていくことの素晴らしさ切なさ哀しさが観る者の胸に突き刺さります。
生涯で最も愛した男性だとピアフが語った当時のボクシング世界ミドル級チャンピオン、マルセル・セルダンとの出逢い。
「君は多くの人の心を慰めるため、休めるために子守唄を歌い続けて来た。しかし君のために子守唄を歌ってくれる人はいない。だから僕がその役割りをしたいんだ」そんなマルセルの愛情に応えるためにピアフはマルセルに捧げる歌を作ります。
そしてその歌の発表の日マルセルは飛行機事故で還らぬ人に。ショックのあまり倒れてしまうピアフ、しかしそれでも何とか立ち上がりステージへ向かいます。
そして歌われる「愛の讃歌」・・・。もう何も言うことはありません。ただ心を揺さぶられるような感動に身を任せたい。そんな気持ちになる作品です。
しかし「愛の讃歌」が作られた背景とピアフの心情が見事に合致したこの名曲が、日本語の歌詞になると陳腐なラブソングになるのは何ともはや・・・。
セッション
2014年制作の比較的新しい映画ですが、観る側に衝撃的な印象を与える作品です。
アメリカ最高の音楽学校シェイファーに入学した主人公のニーマンは、学校で最高峰の指揮者フレッチャーに認められ彼のスタジオ・バンドに参加します。
そしてここからフレッチャーの狂気に満ちたレッスンが・・・。テンポが遅いと椅子を投げつけ罵詈雑言を浴びせかけ、容赦なく頬を殴りつける。
それに耐えフレッチャーの認められようと、血のにじむような練習を重ねるニーマン。最高の演奏を求める狂気と、それに応えようとする狂気。そのぶつかり合いにどんどん引き込まれて行きます。
気弱でフレッチャーの暴力と罵詈雑言に涙を流していたニーマンが、練習を重ねるごとにタフになり俗世間から背を向け、ドラムにのめり込んで行く様子は鬼気迫るものがあります。
この映画の批評の中で「ラストがよく分からない」という意見が見られました。確かに様々な解釈が出来るようなラストですが、監督はそれを意図していたように感じます。
とにかくその狂気の世界には圧倒されます。超一流のジャズメンはこうして作られて行くんだろうなと思わせる余韻の残る作品ですね。
思いつくままに10本を並べてみましたが、やっぱり10本じゃ少ないな・・・。